2012年8月16日木曜日

嘉治教授インタビュー


皆さん、こんにちは!
長らくお待たせしました!PCP Co-ordinatorである嘉治教授へのインタビューを掲載させていただきます。インタビューに伺った私達は嘉治教授の熱意に終始触れる事が出来、大変貴重な時間となりました。嘉治教授がメールの書き方等のマナーを指摘し、私達を常にプロフェッショナルとして厳しく接してくださる理由がこのインタビューを通して垣間見えると思います。興味深い内容なので、是非読んでみてください!
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どういう経緯でPCP Co-ordinatorになられたのでしょうか?
PCPは当時の学部長だった細田衛士さんが中心になって作られました。私はPCPを作る過程には直接かかわっておらず、初代Co-ordinatorは木村福成さんです。20076月から木村さんと一緒に、2008年度からは一人で担当しています。実際にCo-ordinatorになってみて、このプログラムの素晴らしさを実感しました。

先生はThe Johns Hopkins UniversityYale Universityで学んだことがおありですが、その時、日本の大学生とアメリカの大学生はどのようなところが違うと思われましたか?
やはり、勉強量が違います。日本の大学生は米国の学生と比べると、特に読む量が少ないと思います。

日本の大学生のよい側面はありますでしょうか?
日本の大学生固有の良いところは、目上の人や教師に対する態度が礼儀正しくなければいけないと認識している学生が多いことです。しかし、最近ではそれが失われつつあります。礼儀正しさは日本の美徳だと思いますので、それは失ってはならないと思います。

私がここ数年考えていることは、国と文化は別だということです。日本国のパスポートを持っている人だけが、日本の文化をシェアしているわけではありません。大人になってから日本の文化に触れ、その美しさに心を打たれた外国人もいます。むしろ、彼らの方が日本の文化をわかっていて、残さないといけないと思っている場合もあります。私は民間人で、慶應義塾は伝統的に官より民を重んずる傾向もあるためこういうことを言うのかもしれませんが、国というのは二次的で、大事なのは文化だと思います。

私がPCPに期待しCo-ordinatorとして最善を尽くしたいと思っているのは、日本の文化をちゃんと残したいからという事もあります。文化の大切さは、外国人に会えば会うほどわかります。特に、世界を舞台に活躍する人と同じレベルでやっていこうとする時に、「自分にはこれがある」という「よって立つもの」、自信につながるものは何かと考えると、やはり自分の文化になるわけです。

特にヨーロッパの人は、「ヨーロッパ人」という概念があって、その中で自国の文化を誇りとして存在している人が多い。彼らと話をしていると、自分は何をよりどころとしてここに存在しているのか強く自覚していないと、対等に話ができません。恐らく、ヨーロッパの人は、同じヨーロッパの、違う国籍の人と様々な機会に接しているため、自分はフランス人、自分はイギリス人というように、自らの文化を無意識のうちに体現するようになっているのです。そのとき、こちらも「これが私の文化です」というものを確信し体現できないと、同等に渡り合うことはできません。日本にこもっていて、外国の人と接する機会の少ないかたは、日本文化の良さを自覚するのは難しいのではないかと思います。ギリギリの状態におかれ、「さあ、あなたは何を自信の源にしてそこに立っているの?」という場面になった時に初めて、日本の文化というのが出て来るのだと思います。

その為に英語などを学ぶということですか?
そうですね。その為に英語を学んで、第三外国語を学んで、ありとあらゆる外国の人と接することで、自分の文化の大切さが自覚でき、そしてそれを継承しようということになるわけです。私はやはり日本の文化が世界で一番美しいと思っていて、だから日本の文化を残したいのです。もちろん日本の文化には悪い面もあります。例えば、外向きでないとか、自分の考えていることをはっきり言えないとか、コンセンサスを求めるので決断が遅いとか。しかし、良い面もあるわけで、やはりそれらを残していかないといけません。実際に、日本の文化は評価が高い。時間通りに約束を守る、気配りができる、行間が読める、細かいことにも注意を払う、そういうことができる人は、どこの国の人にとっても一緒に仕事がしやすいのです。だからこそ、住んでいる場所や国籍と関係なく、日本の文化を体現している人を一人でも多くこの世界に残したいと思っています。

日本の文化を守る為に、私達大学生ができる事はありますでしょうか?
1つ目は本を読むことじゃないでしょうか?私達があなた達くらいの年齢のときに必ず読んでいた、森鴎外、夏目漱石、川端康成、皆さん読んでいるでしょうか?この人たちの本を読むことで、彼らの世界に浸って日本文化について考えていただきたいと思います。
2つ目は上の人がやっていることをよく見ることです。よく見て、なんでこうなの?と疑問をもったら、自分自身で、その行動をとる理由を考えなくてはなりません。理由を考えた上で筋が通っているならば、その通りにしないといけません。古い慣習は悪い面も良い面も混ざっていますが、それらに遭遇したときに、自分で考え、やはりこれは美しい文化の一面だと思ったら残していただきたいと思います。

PCPの授業は全て英語ですが、英語で学ぶ意味とは何でしょうか?
英語は、日本語と比べて格段にロジカルに考えるのに適した言語です。日本語でロジカルな文章をつくることはできますけれど、それは英語の直訳でしかなくて、極めて日本語らしい文章は、西洋的な意味ではあまりロジカルではありません。だから、人の議論と自分の議論の違いを見つけ、落とし所を模索していくような議論は、やはり英語やフランス語やドイツ語の方がやりやすいと思います。その為、英語で経済学を考えられるということは、とても大事だと思います。抽象的なモデルが頭の中にないと、バックグラウンドの違う人と話はできないから、それを英語で持てるというのは非常に強いことなのです。

色々な学問がある中で、なぜ経済学なのでしょうか?
経済学は社会科学の女王と言われています。それはなぜかというと、最も科学的な社会科学だからだと思います。ですから、それを英語で学ぶことによって、抽象化する能力が身に付きます。そこに大きな意味があると私は思います。

特に西洋人と議論するときは、抽象化できないと成功しません。「誰々が何々と言っている」ではなくて、どのような原理に基づいているのかを重要視しているのです。日本人が西洋人と議論をしたり、一緒に仕事をしたりする時には、少なくともこの点が理解できていないと上手くいきません。

西洋の人と仕事をする時だけではなく、一般に様々なバックグラウンドを持った人と仕事をする時にも、抽象化できなかったら、やはり仕事はうまくいきません。抽象化して、理論的に自分の意見を主張できないと相手にも伝わらないし、相手が言っていることを理解することもできません。日本国内では「説明しなくても何となくわかってくれるはず」という傾向があります。その意味では西洋的な抽象化をする能力を持った人の方が、異文化の中で仕事をする際に強いのです。だから日本人の弱みでもある、抽象化する能力を鍛えたいわけです。

PCP生に期待することは何ですか?
大きくわけて3つあります。1つは初心を忘れないでほしいということです。2つ目は初心で目指していたものよりも、もう一回り大きいものを目指してもらいたい。たとえば慶應義塾が参加して間もないCEMSの学生は、あえて知らない環境に身を置き、世界のどこに行っても活躍できることを誇りとする学生です。PCPからも、自ら新しい場所を選び、何を見ても驚くことなく、どんな状況にあっても動じず、「この人をどうやって扱えば良いのか」と困らせるぐらいの大物が出て来てくれたら良いと思います。3つ目は、できれば霞ヶ関へ、世界レベルのルールを作る人材を送り出せたら良いと思っています。今年はPCP卒業生から霞が関で働く第一号が誕生しました。たとえば財務省の副財務官はOECDの租税委員会の議長、金融庁の方々は世界の金融規制の在り方を決める組織の議長を、現職のまま務めておられます。日本の意見を言うだけではなくて、世界経済が動いていく枠組みの決定に直接かかわり、その重要な決定にあたって世界各国の人々から「この人がいれば話がまとまる」と信頼されるところまでいってほしいと願っています。

最後に、どのような生徒にPCPに入ってもらいたいでしょうか?
ある意味で野心家であってほしい。全部英語で学ぶのは、特に帰国生でなかったら大変だと思いますし、自分の生活の中で、他の事と両立させなければならない。躊躇する理由もわかりますけれど「それでもやっぱりやろう」と思う、チャレンジ精神を持った学生さんに入っていただきたいと思います。

本日は貴重なお時間ありがとうございました。


Profile:【嘉治 佐保子】
1978 慶應義塾女子高等学校、1982 慶應義塾大学経済学部卒業。1984 同大学大学院経済学研究科修士課程修了、経済学部助手。1985 The Johns Hopkins University経済学部博士課程に留学。1988 Yale University経済学部訪問大学院生。1991 慶應義塾大学経済学部助教授。1992 The Johns Hopkins UniversityよりPh.D. in economics取得。1999 慶應義塾大学経済学部教授。2007年より経済学部PCP Co-ordinator兼務。研究分野は国際マクロ経済学、欧州経済。

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